
核融合のQ値をPythonで計算する|「エネルギー収支」で実用性を測る
2026-09-15 ・ 実践
「核融合でエネルギーが取れた」というニュースの本当の意味を測るのが Q値です。投入したエネルギーに対して、何倍のエネルギーが出たか。この記事ではPythonでQ値を計算し、損益分岐点やITERが狙う Q≥10 が何を意味するのかを、数字で理解します。
Q値とは: 出力 ÷ 入力
Q = 核融合で出たエネルギー / 加熱に投入したエネルギー
Q < 1… 投入のほうが多い(赤字)Q = 1… 科学的損益分岐点(ブレークイーブン)Q ≥ 10… 実用発電の目安(ITERの目標)Q = ∞… 点火。自己加熱だけで燃え続ける
Q値のマイルストーン
Q<1
赤字
Q=1
損益分岐
Q≥10
実用の目安
Q=∞
点火
🔥 プラズマを加熱して核融合を起こそう
「加熱」を押して1億度をめざそう。届くと核融合が起きます
核融合には太陽の中心よりさらに高い「1億度」級の超高温が必要。これを保つのが最大の難しさです
準備
pip install numpy
① Q値を計算する
投入エネルギーと出力エネルギーからQ値を出し、状態を判定します。
def q_value(energy_out, energy_in):
return energy_out / energy_in
def status(Q):
if Q < 1: return "赤字(投入>出力)"
if Q < 10: return "科学的には成功、実用にはまだ"
return "実用発電の目安を達成"
for out, inp, label in [
(0.5, 1.0, "初期の実験"),
(1.5, 1.0, "ブレークイーブン超え"),
(500, 50, "ITER目標クラス"),
]:
Q = q_value(out, inp)
print(f"{label}: Q = {Q:.1f} … {status(Q)}")
出力はこうなります。
初期の実験: Q = 0.5 … 赤字(投入>出力)
ブレークイーブン超え: Q = 1.5 … 科学的には成功、実用にはまだ
ITER目標クラス: Q = 10.0 … 実用発電の目安を達成
Q=1を超えても、まだ実用には遠い。「エネルギーが出た」と「発電所として成り立つ」は別物だとわかります。
どのQ値を指しているか要注意
ニュースの「Q>1達成」には落とし穴があります。プラズマに入った熱に対する比(科学的Q)なのか、レーザー装置や施設全体の消費電力まで含めた比(工学的Q)なのかで、意味が桁違い。施設全体で見るとまだQは1を大きく下回るのが2020年代の現実です。
② 施設全体で見るとどうなるか
レーザーや加熱装置の効率を挟むと、同じ核融合出力でも"実質のQ"は大きく下がります。
def engineering_q(fusion_out, laser_energy, wall_plug_efficiency=0.01):
grid_energy = laser_energy / wall_plug_efficiency # 壁のコンセントから見た投入
return fusion_out / grid_energy
# 核融合出力3MJ、レーザー投入2MJ、装置効率1%の例
scientific = q_value(3.0, 2.0)
engineering = engineering_q(3.0, 2.0)
print(f"科学的Q: {scientific:.2f}")
print(f"工学的Q(施設全体): {engineering:.4f}")
科学的には Q=1.5 でも、装置効率を入れた工学的Qは0.015。「点火した」ニュースの裏で、発電所への道のりがどれだけ長いかが数字で見えます。
Q値と三重積は表裏一体
Q値を上げるには、プラズマを濃く・熱く・長く保つ必要があります。それを測るのがローソン条件(三重積)。三重積が閾値を超えると自己加熱が効き、Qが急上昇して点火(Q=∞)に近づきます。2つはコインの裏表です。
まとめ
- Q値=核融合出力 ÷ 投入エネルギー。実用性を測る中心指標
- Q=1は損益分岐、Q≥10が実用の目安、Q=∞は自己加熱で燃え続ける点火
- 「科学的Q」と「施設全体の工学的Q」は桁違い。報道はどちらか要確認
- Q値と三重積(ローソン条件)は表裏一体
もう少し詳しく(背景と理論)
核融合の Q 値は「核融合で得られた出力 ÷ プラズマに投入した加熱電力」で定義される、性能の代表指標です1。Q=1 が投入と出力が等しい科学的ブレークイーブン、Q→∞ が外部加熱ゼロで反応が自立する点火に対応します。ITER は Q=10(投入の10倍)を目標にしています2。ここで注意すべき重要な区別があります——この Q は「プラズマに入った熱」に対する比であって、発電所全体の効率(工学的 Q)とは別物です。加熱装置の効率や熱→電気の変換損失を含めると、実際に売電できる正味電力を得るにはさらに高い Q が必要になります3。2022年に米 NIF がレーザー核融合でレーザー投入エネルギーを上回る核融合出力(科学的ブレークイーブン)を初めて達成し、大きな節目となりました。
次の一歩 🌸
成立条件はローソン条件をPythonで計算、エネルギーの源は核融合エネルギーをPythonで計算、実証炉はITER計画へどうぞ。