
トリチウム増殖比をPythonで計算する|燃料を"自給"できるか
2026-10-12 ・ 実践
D-T核融合の燃料 三重水素(トリチウム) は自然界にほとんど存在せず、しかも半減期12年で減っていきます。だから炉は燃料を自分で作らねばなりません。その達成度を測るのが 増殖比(TBR)。Pythonで計算し、燃料自給の条件を理解します。トリチウム増殖の定量版です。
しくみ:中性子でリチウムから作る
核融合で飛び出す中性子を、壁の後ろのリチウムに当てると、反応でトリチウムが生まれます。消費した燃料を、反応の副産物で補充する仕組みです。
燃料を炉内で自給する
D-T反応
中性子が飛ぶ
リチウムに当てる
Tが生まれる
燃料に戻す
自給ループ
準備
pip install numpy
① 増殖比(TBR)を計算
「1回のD-T反応で消費した1個のトリチウムに対し、何個のトリチウムを作れたか」がTBRです。
# 反応1回あたり中性子は1個。その中性子が何個のTを生むか
neutron_per_reaction = 1.0
capture_efficiency = 0.9 # 中性子がリチウムに捕まる割合
T_per_capture = 1.05 # 捕獲1回あたり生まれるT(中性子増倍材で>1に)
TBR = neutron_per_reaction * capture_efficiency * T_per_capture
print(f"トリチウム増殖比 TBR = {TBR:.2f}")
print("燃料自給できる?:", "YES" if TBR > 1.0 else "NO(燃料が枯渇)")
出力は TBR ≈ 0.95、この設定では NO。消費した燃料を作りきれず、じわじわ枯渇してしまいます。
② なぜ1より"余裕を持って"超える必要があるか
TBRは、ちょうど1では足りません。増殖したトリチウムの一部は壁に吸われたり、崩壊で失われるからです。
losses = 0.05 # 配管吸着・崩壊などのロス
for T_per_capture in [1.0, 1.1, 1.2]:
tbr = 0.9 * T_per_capture
net = tbr - losses
print(f"T/捕獲={T_per_capture}: TBR={tbr:.2f}, 損失差引後={net:.2f} "
f"→ {'自給OK' if net > 1.0 else '不足'}")
損失を差し引いても1を超えるには、TBRに1.1以上の余裕が必要とわかります。中性子を増やす「増倍材」(ベリリウムや鉛)を混ぜて、中性子を増やす工夫が要ります。
中性子増倍材が鍵
1回の反応で中性子は1個しか出ないので、そのままでは損失を考えるとTBR>1が困難。そこで中性子を叩いて2個に増やす「増倍材」を使います。これで1個の中性子から複数のトリチウムを生み、自給を成立させます。ブランケット設計の核心です。
燃料自給は『未実証』
TBR>1を実際の炉で達成できるかは、まだ実証されていません。ITERの後継原型炉で挑む大きな課題です。燃料が自給できなければ、そもそも核融合発電は成立しない——地味ですが決定的な技術です。
まとめ
- 三重水素は希少で減るため、炉内で自給する必要がある
- 中性子をリチウムに当ててトリチウムを作る(増殖)
- 損失があるため TBR は1.1以上の余裕が必要
- 中性子増倍材が鍵。燃料自給は未実証で今後の大きな課題
もう少し詳しく(背景と理論)
三重水素(トリチウム)は自然界にほぼ存在せず(半減期約12.3年で崩壊)、D-T 炉は燃料を自分で作る必要があります1。その手段が、壁の後ろのリチウムに核融合中性子を当てて T を生む反応です(⁶Li + n → T + ⁴He など)2。達成度を測るのがトリチウム増殖比(TBR)——消費した1個の T に対し何個作れたかで、配管吸着・崩壊・不完全な中性子捕獲などの損失を差し引いても1を超える必要があります3。しかし D-T 反応1回で中性子は1個しか出ないため、そのままでは損失を考えると TBR>1 が困難です。そこでベリリウムや鉛の中性子増倍材で中性子を増やし、余裕を持たせます。燃料自給(TBR>1)はまだ実炉で実証されておらず、ITER の後継が挑む決定的な課題です4。
次の一歩 🌸
しくみの全体像はトリチウム増殖、中性子の話は中性子の壁負荷、燃料はD-T燃料へどうぞ。