
中性子の壁負荷をPythonで計算する|炉の壁が受ける"猛烈な照射"
2026-10-11 ・ 実践
D-T核融合のエネルギーの約8割は中性子が運びます。この高速中性子が炉の壁に絶え間なく降り注ぎ、材料を傷めつける——核融合炉の最難関の一つです。壁が受ける負荷をPythonで計算し、なぜ材料の課題が深刻なのかを理解します。
中性子がエネルギーを運ぶ
D-T反応(17.6MeV)のうち、14.1MeVを中性子、3.5MeVをα粒子が持ちます。電気を帯びないα粒子と違い、中性子は磁場で閉じ込められず、まっすぐ壁へ突き刺さります。エネルギーの大半がこうして壁に届くのです。
準備
pip install numpy
① 中性子の壁負荷を計算
核融合出力から、単位面積あたりに壁が受ける中性子パワー(壁負荷)を求めます。
import numpy as np
P_fusion_MW = 500 # 核融合出力 [MW]
wall_area_m2 = 700 # 炉壁の面積 [m^2](ITER級)
# エネルギーの約80%が中性子として壁へ
neutron_fraction = 14.1 / 17.6
wall_load = P_fusion_MW * neutron_fraction / wall_area_m2
print(f"中性子壁負荷: {wall_load:.2f} MW/m²")
出力は約 0.57 MW/m²。1平方メートルあたり数十万ワットの中性子パワーが降り注ぎます。商用炉ではさらに高く、1〜2 MW/m²を目指します。
② 材料が受ける照射量(dpa)
中性子は材料の原子を弾き飛ばし、格子を壊します。その量を dpa(はじき出し損傷) で見積もります。
def dpa_per_year(wall_load_MW, dpa_per_MWyr=10):
# 経験的な係数:1 MW·年/m² あたり おおよそ10 dpa
return wall_load_MW * dpa_per_MWyr
for load in [0.5, 1.0, 2.0]:
print(f"壁負荷 {load} MW/m² → 年間 約 {dpa_per_year(load):.0f} dpa")
商用炉クラス(1〜2 MW/m²)では、材料が年に10〜20 dpaもの損傷を受けます。1 dpaは「材料の全原子が平均1回弾き飛ばされる」レベル。金属の性質が変わり、脆くなっていきます。
中性子は磁場で防げない
プラズマは磁場で閉じ込められますが、電気を帯びない中性子は素通りして壁に届きます。しかも14MeVの高速中性子は、原子炉の中性子より材料を激しく傷める。この照射に耐える材料の開発が、核融合実現の大きな壁です。
中性子は『燃料工場』でもある
中性子は厄介者だけではありません。壁の後ろのリチウムに中性子を当てると、燃料の三重水素が作れます(トリチウム増殖)。中性子のエネルギーは熱として回収して発電にも使う。「材料を傷める敵」であり「燃料と熱を生む味方」でもある、二面性を持ちます。
まとめ
- D-T反応のエネルギーの約8割(14.1MeV)を中性子が運ぶ
- 中性子は磁場で防げず、まっすぐ壁に降り注ぐ
- 壁負荷は数十万〜数百万W/m²。商用炉は1〜2 MW/m²目標
- 年10〜20 dpaの照射損傷。耐える材料開発が最難関
もう少し詳しく(背景と理論)
D-T 反応のエネルギーの約8割は14.1 MeV の高速中性子が運びます。中性子は電気を帯びないため磁場では閉じ込められず、まっすぐ壁へ飛んで熱と損傷を与えます1。壁が受ける熱流束が**中性子壁負荷(MW/m²)**で、商用炉では1〜2 MW/m² 級が目標です。材料損傷の指標が dpa(displacements per atom)で、1 dpa は「材料中の全原子が平均1回はじき飛ばされた」状態を意味し、商用炉では年10〜20 dpa にも達します2。この照射で材料は脆化・膨潤し、さらに核変換でヘリウムが生成して結晶粒界を弱めます。だから低放射化かつ耐照射性のある構造材料の開発が核融合実現の大きな壁です3。一方で中性子は、壁の後ろのリチウムでトリチウムを生む資源でもある二面性を持ちます。
次の一歩 🌸
材料の課題は材料の課題、燃料を作るトリチウム増殖、反応エネルギーは核融合エネルギーへどうぞ。