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核融合の電力バランスをPythonで計算する|"自己燃焼"が始まる条件

2026-10-09実践

#電力バランス#点火#自己加熱#Python#実践

核融合の究極目標は 点火——外部加熱なしで自分の熱だけで燃え続ける状態です。それが成り立つかは、生まれる熱と失われる熱の電力バランスで決まります。Pythonで各項を計算し、点火の条件を数値で理解します。Q値の物理的な中身です。

3つの電力

プラズマのエネルギー収支は、次の3つのせめぎ合いです。

  • アルファ加熱 — 核融合で生まれるヘリウム(α粒子)がプラズマを温める(プラス)
  • 放射損失制動放射などで失う(マイナス)
  • 輸送損失 — 熱が閉じ込めから漏れる(マイナス)

生まれる熱が失う熱を上回れば、外部加熱なしで燃え続けます。

準備

pip install numpy

① 各電力を計算

D-T反応のエネルギーのうち、α粒子が受け取る分(3.5MeV)が自己加熱になります。

import numpy as np

n = 1e20                       # 密度 [1/m^3]
n_D = n_T = n / 2
E_alpha = 3.5e6 * 1.602e-19    # α粒子のエネルギー
sigma_v = {10: 1.1e-22, 15: 2.1e-22, 20: 3.2e-22}

def alpha_heating(T_keV):
    return n_D * n_T * sigma_v[T_keV] * E_alpha

def bremsstrahlung(T_keV, Z_eff=1.0):
    return 5.35e-37 * Z_eff * n**2 * np.sqrt(T_keV)

for T in [10, 15, 20]:
    heat = alpha_heating(T)
    rad = bremsstrahlung(T)
    print(f"温度 {T}keV: α加熱 {heat/1e3:5.1f} kW/m³ / 放射損失 {rad/1e3:4.1f} kW/m³")

出力:

温度 10keV: α加熱 154.2 kW/m³ / 放射損失 16.9 kW/m³
温度 15keV: α加熱 294.4 kW/m³ / 放射損失 20.7 kW/m³
温度 20keV: α加熱 448.6 kW/m³ / 放射損失 23.9 kW/m³

温度が上がるほど、α加熱が放射損失を大きく引き離します。核融合の発熱が損失に勝てる領域があるとわかります。

② 輸送損失を含めた点火条件

放射だけでなく、閉じ込め時間 τ で決まる輸送損失も引きます。

def transport_loss(T_keV, tau):
    T_J = T_keV * 1000 * 1.602e-19
    W = 3 * n * T_J                # プラズマの蓄積エネルギー
    return W / tau                  # 単位時間あたりの損失

T = 15
alpha = alpha_heating(T)
rad = bremsstrahlung(T)
for tau in [1.0, 3.0, 5.0]:
    loss = rad + transport_loss(T, tau)
    balance = alpha - loss
    state = "点火(自己燃焼)" if balance > 0 else "外部加熱が必要"
    print(f"τ={tau}s: α加熱-損失 = {balance/1e3:+.1f} kW/m³ → {state}")

出力:

τ=1.0s: α加熱-損失 = -447.3 kW/m³ → 外部加熱が必要
τ=3.0s: α加熱-損失 = +33.3 kW/m³ → 点火(自己燃焼)
τ=5.0s: α加熱-損失 = +129.5 kW/m³ → 点火(自己燃焼)

閉じ込め時間 τ が短いと損失が勝って外部加熱が必要ですが、τ を長くするとα加熱が損失を上回り点火します。密度・温度・τ の三重積が効くのが、まさにこの計算です。

🌱

点火は『燃え続ける』状態

点火すると、核融合の熱だけでプラズマの温度が保たれ、外部加熱を切れます。太陽と同じ自己燃焼状態。ここに至れば投入エネルギーはほぼゼロ=Q値が無限大に近づきます。核融合発電の理想形です。

⚠️

点火とブレークイーブンは違う

「エネルギーが出た(Q>1)」と「自己燃焼(点火)」は別物です。点火は外部加熱ゼロで燃え続ける、はるかに厳しい条件。現在の実験の多くはまだ外部加熱に頼る段階で、点火は次の大きな目標です。

まとめ

  • 電力バランス = α加熱 −(放射損失+輸送損失)
  • 温度が上がるとα加熱が放射損失を引き離す
  • 閉じ込め時間 τ を長くすると損失が減り点火に至る
  • 点火は外部加熱ゼロの自己燃焼。ブレークイーブンより厳しい

もう少し詳しく(背景と理論)

核融合炉が成立するかは、プラズマに入る加熱パワーと出ていく損失パワーのせめぎ合いで決まります。加熱側は外部加熱(中性粒子入射やRF)と、核融合で生じたα粒子による自己加熱。損失側はエネルギー閉じ込め時間で逃げる輸送損失と、制動放射などの放射損失です1。α粒子の自己加熱だけで損失を賄えるようになった状態が点火で、外部加熱を切っても反応が続きます2。D-T では出力の20%(α粒子ぶん)しか自己加熱に使えない(80%は中性子で外へ抜ける)ため、点火のハードルは高くなります3。このパワーバランスを密度・温度の関数として解くと、点火が可能な運転領域(POPCON 図)が描け、炉の運転点設計の基礎になります。

次の一歩 🌸

効率の指標はQ値をPythonで、成立条件はローソン条件、放射損失は制動放射へどうぞ。

Footnotes

  1. 定常運転はパワーバランス(加熱=損失)で決まる。加熱=外部+α自己加熱、損失=輸送(∝1/τ_E)+放射。両者の均衡点が運転温度を与える。

  2. 点火はα自己加熱だけで損失を補える状態。外部加熱ゼロで燃焼が持続する。Q→∞ に対応し、発電炉の理想だが達成は難しい。

  3. D-T ではα粒子(3.5MeV, 全体の20%)のみプラズマ内に留まり自己加熱する。中性子(80%)は外へ抜けるため、点火に必要な三重積が高くなる。

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