
ローソン条件をPythonで計算する|核融合が"成立"する境界
2026-09-05 ・ 実践
「核融合はいつできる?」の答えを握るのが ローソン条件です。プラズマがどれだけ濃く・熱く・長く保てれば、核融合が自分の熱で燃え続けられるか——その境界を1つの数字で表します。この記事ではPythonで三重積を計算し、各方式が狙う値と比べてみます。
カギは「三重積」
核融合が正味プラスになるには、次の3つを同時に満たす必要があります。
三重積 = n × T × τ
n… プラズマの密度(粒子数 /m³)T… 温度(keV。1 keV ≈ 1160万℃)τ… エネルギー閉じ込め時間(秒)
3つの掛け算なのがポイント。どれか1つが小さいと、他で補うのが難しい。D-T燃料の点火にはおおよそ n·T·τ ≥ 3×10²¹ keV·s/m³ が必要とされます。
3つを同時に満たす
密度 n
濃く
温度 T
熱く
時間 τ
長く保つ
🎚️ 核融合の点火条件シミュレーター
「温度 × 密度 × 閉じ込め時間」を大きくすると点火します(三重積という考え方)
三重積(大きいほど良い)
27
まだ足りない
3つのどれかが低いと点火しません。「熱く・濃く・長く」の同時達成が核融合の難しさです(ローソン条件)
準備
pip install numpy
① 三重積を計算して判定する
トカマク型(磁場閉じ込め)のおおよその値を入れてみます。
import numpy as np
def triple_product(n, T, tau):
return n * T * tau
IGNITION = 3e21 # D-T点火のおおよその閾値 [keV·s/m^3]
# トカマク型のおおよその狙い
n = 1e20 # 密度 [1/m^3]
T = 15 # 温度 [keV](約1.7億℃)
tau = 3.0 # 閉じ込め時間 [s]
tp = triple_product(n, T, tau)
print(f"三重積 = {tp:.2e} keV·s/m^3")
print("点火まで到達?:", tp >= IGNITION)
print("閾値に対する比:", round(tp / IGNITION, 2))
出力は 三重積 = 4.50e+21、点火閾値の 約1.5倍。この3つを同時に満たすのがどれほど難しいかは、次で実感できます。
バランスが命
tau を 3.0 → 1.0 に下げると、一気に閾値を割り込みます。3要素の掛け算なので、1つ落ちると全体が落ちる。「温度は達成、でも閉じ込めが足りない」——核融合が難しい理由がここに凝縮されています。詳しくはなぜ難しいのかへ。
② 方式ごとの戦い方の違い
同じ三重積でも、方式によって「どの変数で稼ぐか」が正反対です。
# 磁場閉じ込め(トカマク): 薄いプラズマを長く保つ
tokamak = triple_product(n=1e20, T=15, tau=3.0)
# 慣性閉じ込め(レーザー): 超高密度を一瞬だけ
laser = triple_product(n=1e31, T=15, tau=1e-11)
print(f"トカマク : {tokamak:.2e}")
print(f"レーザー : {laser:.2e}")
③ Q値との関係
よく聞く Q値(投入エネルギーに対する出力の比)とも繋がっています。三重積が閾値を超えると自己加熱で燃え続ける「点火(Q=∞)」に近づきます。ITERが狙うのは Q≥10。三重積を上げる競争が、そのままQ値の競争です。
まとめ
- ローソン条件=
n × T × τ(三重積)で核融合の成立を判定する - 密度・温度・閉じ込め時間の掛け算なので、1つ欠けても成り立たない
- トカマクは「薄く長く」、レーザーは「濃く一瞬」で同じ三重積を狙う
- 三重積を超えると自己加熱で燃え続ける点火に近づき、Q値の話に繋がる
もう少し詳しく(背景と理論)
ローソン条件は John Lawson が1955年(1957年公表)に導いた、核融合が正味エネルギー収支で成立するための条件です1。核融合の出力は密度の2乗と反応率で増え、損失はエネルギーが逃げる速さ(エネルギー閉じ込め時間 τ)で決まります。両者を釣り合わせると、密度 n と閉じ込め時間 τ の積 nτ がある値を超えることが条件として現れます2。より実務的には温度 T も含めた三重積 nTτで議論されます。重要な区別として、外部加熱と釣り合う「臨界プラズマ条件(ブレークイーブン)」と、核融合で生じたα粒子の加熱だけで反応が自立する「点火(ignition)」は別物で、後者がより厳しい条件です3。
次の一歩 🌸
プラズマの基本はプラズマとは、効率の指標はQ値、難しさの全体像はなぜ核融合は難しいのかへどうぞ。