
エネルギー閉じ込め時間をPythonで見積もる|"大きいほど有利"な理由
2026-10-10 ・ 実践
核融合の成否を握るエネルギー閉じ込め時間 τ_E——プラズマが熱を逃さず保てる時間です。これは理論だけでは正確に予測できず、多数の実験から得た**経験式(スケーリング則)**で見積もります。Pythonで計算し、なぜITERがあれほど巨大なのかを理解します。
スケーリング則とは
τ_E は「装置の大きさ・電流・磁場・加熱パワー」などの関数として、実験データから経験的に求められています。理論より、多数の装置のデータをまとめた式のほうが実用的だからです。
準備
pip install numpy
① 簡易スケーリング則で τ_E を見積もる
トカマクの代表的なスケーリング(IPB98風の簡易版)で、主要パラメータへの依存を見ます。
import numpy as np
def tau_E(I_MA, B_T, n20, P_MW, R_m, a_m):
# 主要な依存だけを取り出した簡易式(比例関係を見る用)
return (0.056 * I_MA**0.93 * B_T**0.15 * n20**0.41
* P_MW**-0.69 * R_m**1.97 * a_m**0.58)
# 小型装置 vs ITER級
print("小型:", round(tau_E(1, 3, 0.5, 10, 1.5, 0.5), 3), "秒")
print("ITER級:", round(tau_E(15, 5.3, 1.0, 50, 6.2, 2.0), 2), "秒")
出力はおおよそ「小型:0.1秒未満」「ITER級:数秒」。装置を大きくするだけで閉じ込め時間が桁で伸びます(Rの約2乗で効く)。ITERが巨大なのは、この閉じ込め時間を稼ぐためです。
② サイズの効果を見る
大半径 R を変えて、閉じ込め時間がどう伸びるか確かめます。
for R in [1.5, 3.0, 6.2]:
a = R / 3.1 # アスペクト比を一定に
t = tau_E(15, 5.3, 1.0, 50, R, a)
print(f"大半径 R={R}m → τ_E ≈ {t:.2f} 秒")
R が大きいほど τ_E が急に伸びます。プラズマが大きいほど「中心から壁まで熱が逃げる距離」が長くなり、保温性が上がるためです。大きいほど有利——これが核融合炉が巨大化する根本理由です。
なぜ経験式なのか
プラズマの熱の逃げ方(乱流輸送)は複雑で、第一原理から正確に計算するのが困難です。そこで世界中の装置のデータを集めて統計的な式を作り、未来の装置を設計します。ITERの設計もこのスケーリング則に基づいています。理論と実験の橋渡しです。
外挿には不確実性がある
スケーリング則は既存装置のデータから作られるため、ITERのような未踏の大型装置への外挿には不確実性が伴います。「本当にこの式が成り立つか」を確かめるのもITERの重要な目的の一つ。予測が外れるリスクも織り込んで設計されています。
まとめ
- エネルギー閉じ込め時間 τ_E は経験式(スケーリング則)で見積もる
- 装置サイズ(大半径R)に強く依存し、大きいほど桁で有利
- だから核融合炉は巨大化する(ITERが大きい理由)
- 乱流輸送が複雑なため理論でなく実験データで式を作る
もう少し詳しく(背景と理論)
エネルギー閉じ込め時間 τ_E は「プラズマが蓄えた熱エネルギー ÷ 損失パワー」で、プラズマがどれだけ熱を保てるかを示すローソン条件の中心量です1。厄介なのは、この τ_E を第一原理から正確に予測するのが難しいこと——プラズマ中の乱流輸送が支配的で、理論だけでは決まりません2。そこで多数の実験データから経験式を作ります。代表が ITER98(y,2) スケーリング則で、τ_E を電流・磁場・サイズ・加熱パワー・密度などのべき乗の積で表します3。この経験則が、閉じ込めの良いH モード(高閉じ込めモード、1982年 ASDEX で発見)を前提に、ITER の大きさ(大半径6.2m)を決める根拠になりました。装置が大きいほど τ_E が延びるため、核融合炉は大型化する傾向があります。
次の一歩 🌸
成立条件はローソン条件、実証炉はITER計画、電力収支は電力バランスへどうぞ。