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プラズマ診断技術とは — 1億度のプラズマをどう測るのか

2026-09-08実践

#プラズマ診断#トムソン散乱#干渉計#分光法#実践

核融合プラズマは1億度を超える超高温です。温度計を突っ込めば一瞬で蒸発してしまいますし、そもそも磁場やレーザーで閉じ込めているプラズマに物理的なセンサーを触れさせること自体が、閉じ込めを乱す原因になります。つまり核融合の研究者は「絶対に触れられない対象」の温度・密度・電流・不純物量・反応率を、外側からリモートで測定しなければなりません。この記事では、その代表的な手段であるトムソン散乱・磁気診断・干渉計・分光法・中性子診断という5つのプラズマ診断技術を紹介し、なぜこれらが炉の制御や「点火」「ブレークイーブン」といった節目の確認に欠かせないのかを見ていきます。

この記事で分かること

  • プラズマは触れずに、レーザーや磁場センサー、放射線検出器を使って外側から間接的に測定するしかない
  • トムソン散乱はレーザー光の散乱を使い、電子の温度と密度を同時に測る代表的な手法
  • ロゴウスキーコイルなどの磁気診断は、プラズマ自身が作る磁場からプラズマ電流と形状を割り出す
  • 干渉計・分光法(CXRS)・中性子診断を組み合わせることで、密度、イオン温度、反応率まで多面的に把握できる
  • NIFの点火確認など核融合の重要なマイルストーンは、こうした診断技術の積み重ねによって初めて「証明」できる

対象読者:プラズマ計測の基本原理を体系的に理解したいエンジニア・学生向け

執筆:ゆるふわ核融合編集部 最終更新日:2026年9月8日

なぜプラズマは「触れずに測る」しかないのか

プラズマ診断plasma diagnostics

プラズマの温度・密度・電流・不純物量・反応率といった物理量を、プラズマに物理的に接触せずに測定する技術の総称です。レーザー光の散乱、電磁波の位相変化、プラズマ自身が作る磁場、放出される光や中性子など、プラズマが外部に残す「痕跡」を手がかりにして、間接的に内部の状態を推定します。

核融合プラズマの中心部は1億度を超える一方、これを閉じ込める超伝導磁石はマイナス269度級まで冷やされています。この極端な温度差がわずか数メートルの中に同居しているのが核融合装置の特徴で超伝導マグネットとはで紹介した通りです。当然ながら、この環境に熱電対のような接触式センサーを差し込むことはできません。プラズマに触れた瞬間にセンサーは蒸発し、しかもプラズマ自体を冷やして乱してしまいます。そのため核融合の診断技術は、必然的に「外からレーザーを当てる」「外に漏れ出る光や粒子を受け止める」「プラズマが作る磁場を外側のコイルで拾う」といった非接触・遠隔計測が中心になります。

💡

診断は制御と証明の両方に必要

プラズマ診断には大きく二つの役割があります。一つは炉をリアルタイムで安全に制御するための「センサー」としての役割、もう一つは「本当に狙った反応が起きているか」を科学的に証明するための「証拠」としての役割です。後者は特に、点火やブレークイーブンといった歴史的なマイルストームを主張する際に厳しく問われます。

電子の温度と密度を測る:トムソン散乱

トムソン散乱Thomson scattering

強力なレーザーをプラズマに打ち込み、プラズマ中の自由電子によって散乱された光を観測する手法です。散乱光の強度からは電子の「密度」が、散乱光の波長がどれだけ広がっているか(ドップラー広がり)からは電子の「温度」が同時にわかります。プラズマ診断の中でも特に信頼性が高く、多くのトカマクで標準的に使われています。

しくみはこうです。Nd:YAGレーザーのような高出力レーザーパルスをプラズマの断面に沿って打ち込み、電子によって散乱された光を複数の観測点から集めます。散乱光は電子の熱運動によってわずかに波長が広がっており、この広がり具合から電子温度を、散乱光そのものの明るさから電子密度を算出できます1。ITERのコア・プラズマ・トムソン散乱(CPTS)診断では、4ジュール・4ナノ秒のNd:YAGレーザーパルスを使い、電子温度は最大40keV(約4.6億度相当)まで、密度は3×10¹⁹〜3×10²⁰ m⁻³の範囲で測定できるよう設計されています1

🎯

精度10%

ITER CPTSが目標とする電子温度の測定精度

📏

精度5%

同じく電子密度の測定精度目標

🌡️

最大40keV

測定可能な電子温度の上限(約4.6億度相当)

🔬

66mm

プラズマ断面方向の空間分解能

トムソン散乱の強みは、電子温度と密度を同じ場所・同じタイミングで直接測定できる点です。ただし散乱光は非常に微弱なため、高出力レーザーと高感度検出器(アバランシェ・フォトダイオードなど)を組み合わせた大がかりな光学系が必要になり、装置としてはかなりコストのかかる部類の診断です。

プラズマ電流と形状を測る:磁気診断

トムソン散乱が「プラズマの中身」を見るのに対し、磁気診断は「プラズマが外に及ぼす影響」を見る手法です。プラズマ自体が数百万〜数千万アンペアという巨大な電流を流しているため、その電流はアンペールの法則に従って周囲に磁場を作ります。この磁場を真空容器の外側に置いたコイルで検出すれば、プラズマに触れることなく電流や形状を割り出せます。

ロゴウスキーコイルRogowski coil

真空容器を取り囲むように設置された、多数の巻き線を持つトロイダル状のコイルです。アンペールの法則とファラデーの法則を利用して、コイルを貫く全プラズマ電流の時間変化を測定します。コイルの一端を折り返して逆向きに巻き戻す「バックワインド」構造になっており、これによってトロイダル磁場など測定対象外の磁場成分の影響を打ち消せる点が工夫のポイントです2

ロゴウスキーコイルが総電流を測るのに対し、真空容器の各所に配置された磁気ピックアッププローブ(Mirnovコイルなど)は局所的な磁場の乱れを、フラックスループはプラズマの位置や形状の推定に使う磁束の変化を、それぞれ捉えます。これらを組み合わせた磁気診断一式は、EASTやITERのようなトカマクにおいて、プラズマ平衡(形状・位置)の再構成、電流の把握、プラズマの蓄積エネルギー推定、そして炉の形状制御そのものに使われています2

磁気診断がプラズマ制御につながる流れ

🧲

外側のコイルで磁場を検出

ロゴウスキーコイル・磁気プローブ・フラックスループが真空容器外周で磁場変化を拾う

🧮

平衡計算でプラズマ形状を再構成

検出した磁場データから、プラズマ電流・位置・形状をリアルタイムで逆算する

🎛️

制御コイルにフィードバック

推定した形状のズレをもとに、ポロイダル磁場コイルの電流を瞬時に調整する

🛡️

プラズマの位置・形状を維持

炉壁への接触や不安定現象を防ぎながら、安定した放電を継続する

磁気診断は他の光学診断に比べて装置がシンプルで応答も速いため、プラズマ形状をミリ秒単位でフィードバック制御する用途に向いています。一方で、磁場情報から電流分布の細かい内部構造まで一意に決めることは原理的に難しく、他の診断(トムソン散乱や分光法など)と組み合わせて精度を補う必要があります。

密度の別ルート:干渉計とポラリメトリー

トムソン散乱以外にも、電子密度を測る有力な手法があります。それが干渉計です。プラズマは自由電子を含むため、真空とは異なる屈折率を持ちます。この屈折率はプラズマの電子密度に依存するため、レーザーや電磁波をプラズマの中に通し、通過前後での位相のズレ(干渉縞のズレ)を測ることで、視線に沿った電子密度の積分値を求められます3

さらに、プラズマ中の磁場によって光の偏光面が回転する「ファラデー回転」を利用するポラリメトリーを組み合わせると、密度だけでなく電流分布に関する情報も得られます。干渉計とポラリメトリーは同じレーザー光路を共有できることが多く、WESTやITERなど多くのトカマクで一体型の診断システムとして開発が進められています3

🔴

トムソン散乱

  • ある一点・一瞬の電子温度と密度を直接測定
  • 空間分解能が高く、プロファイル形状の把握に強い
  • 測定は離散的(決まった観測点のみ)
  • 高出力レーザーと精密光学系が必要でコストが高い
VS
🔵

干渉計・ポラリメトリー

  • 視線上の密度を積分値として連続的に測定
  • 時間分解能が高く、密度の速い変化を追いやすい
  • 視線に沿った積分値なので空間分解能はやや粗い
  • ポラリメトリーを併用すると電流分布の情報も得られる

このように、密度ひとつを測るにも複数の手法があり、それぞれ得意・不得意が異なります。実際の炉ではトムソン散乱と干渉計の両方を使い、互いの結果を突き合わせることで測定の信頼性を高めています。

不純物とイオン温度を測る:分光法(CXRS)

電子の温度・密度がわかっても、実際に核融合反応を起こす「イオン」の温度が別途わからなければ性能は評価できません。ここで使われるのが分光法、特に**電荷交換再結合分光法(CXRS:Charge eXchange Recombination Spectroscopy)**です。

CXRScharge exchange recombination spectroscopy

プラズマ中に中性粒子ビームを打ち込み、ビームの中性原子がプラズマ中の不純物イオン(炭素やヘリウムなど)に電子を受け渡す「電荷交換」反応を起こさせます。電子を受け取ったイオンは励起状態から特定の波長の光を放出するため、その光をスペクトル分光することで、ドップラー広がりからイオン温度、ドップラーシフトからプラズマの回転速度、発光強度から不純物密度を同時に求められます4

CXRSに限らず、プラズマが自然に放つ光や中性粒子を分光計測することで、不純物の種類・量、燃料の希釈度合い、プラズマの回転速度など、炉の性能と安全な運転に直結する情報が得られます。不純物の混入は、ダイバータと熱除去技術で扱った第一壁材料からのスパッタリング(削れ)が原因になることが多く、分光診断はダイバータ・材料工学の課題とも密接につながっています。

核融合反応そのものを測る:中性子診断

ここまでの手法は、いずれも「核融合反応が起きる条件」を測るものでした。しかし「実際にどれだけ核融合反応が起きたか」を直接示す最も確実な証拠は、D-T反応で放出される中性子です。中性子の数(収量)はそのまま核融合反応の回数に比例するため、中性子診断は炉の出力そのものを測る手段になります。

中性子診断neutron diagnostics

核融合反応で放出される中性子の数(収量)やエネルギースペクトルを、シンチレーション検出器や磁気反跳中性子分光計(MRS)などで測定する手法です。中性子の総数から核融合出力(反応率)を、エネルギースペクトルの広がりからイオン温度や燃料の圧縮度合いを推定できます。核融合反応そのものを直接示す証拠として、性能評価やマイルストーン確認で特に重視されます5

中性子診断が歴史的な注目を集めたのが、2022年12月5日に米国のNIF(National Ignition Facility、慣性閉じ込め方式)で発表された「点火」の確認です。この実験では2.05メガジュールのレーザーエネルギーを投入し、3.15メガジュールの核融合エネルギーを生み出したと報告されましたが、この核融合エネルギー量そのものが、放出された中性子の収量とエネルギースペクトルの測定から算出されています5。磁気反跳中性子分光計(MRS)は、この実験で絶対中性子収量を測定するために使われた2つの主要システムの一つで、中性子のエネルギースペクトルから核融合出力・イオン温度・燃料の圧縮度合いまで割り出せる点が特徴です6

2.05 MJ

NIF点火実験(2022年12月5日)で投入したレーザーエネルギー

💥

3.15 MJ

同実験で生成が確認された核融合エネルギー

📈

約20倍

点火達成に至るまでの中性子収量の増加幅

⏱️

100ピコ秒

ピーク圧縮時に中性子・X線が生成される時間スケール

⚠️

マイルストームの主張には診断の裏付けが要る

「ブレークイーブンを達成した」「点火に成功した」といった発表は、その裏で複数の独立した診断システムによる測定値の突き合わせが行われています。NIFの点火確認でも、中性子診断とX線イメージングなど複数の手法を組み合わせて数値の妥当性を検証しており、単一の測定値だけで歴史的な成果が主張されるわけではありません5

まとめ

  • プラズマは1億度を超える超高温のため、接触式センサーは使えず、レーザー・磁場・光・中性子を介した非接触の遠隔計測が基本になる
  • トムソン散乱はレーザー散乱光から電子温度と密度を同時に測定する代表的な手法で、ITERでは精度10%(温度)・5%(密度)を目標にしている
  • ロゴウスキーコイルなどの磁気診断は、プラズマ自身が作る磁場から電流・形状を割り出し、リアルタイムの形状制御に使われる
  • 干渉計・ポラリメトリーは屈折率とファラデー回転を利用した密度・電流の別ルートの測定手段
  • CXRS(電荷交換再結合分光法)はイオン温度・不純物量・回転速度をドップラー広がりなどから求める
  • 中性子診断は核融合反応そのものの証拠であり、NIFの点火確認など重要なマイルストーンの主張を裏付ける役割を果たす

もう少し詳しく(背景)

プラズマ診断がこれほど多様化しているのは、単一の測定手法では「プラズマの全体像」を捉えきれないからです。トカマクのしくみ磁場閉じ込めとはで紹介したように、トカマクのプラズマは電子とイオンという二種類の粒子が、磁場に沿って複雑に運動しながら閉じ込められています。電子の温度・密度はトムソン散乱や干渉計で、イオンの温度や不純物は分光法で、電流や形状は磁気診断で、そして反応そのものは中性子診断で——というように、それぞれ異なる物理現象を足がかりにした測定手法を積み重ねることで、初めてプラズマの状態を立体的に把握できます。ITERにはこうした診断システムが50種類以上、101種類ものパラメータを測定するために設置される計画になっており、これは単一の巨大センサーではなく、多数の専門化された「目」を組み合わせる設計思想を象徴しています7

これらの診断は、単に研究データを取るためだけのものではありません。磁気診断のようにミリ秒単位で応答する測定は、プラズマの位置や形状を安定させるための制御ループに直接組み込まれており、診断が止まればプラズマ自体を安全に維持できなくなります。また、プラズマとは何かで扱った通り、プラズマは非常に不安定になりやすい状態でもあるため、ダイバータと熱除去技術で見た熱・粒子排出の制御も、こうした診断データなしには成り立ちません。プラズマ診断技術は、核融合研究の「縁の下の力持ち」でありながら、性能向上や商用炉の実現に向けた進捗を測る唯一の物差しでもあるのです。

参考資料・出典

ゆるふわポータルでは、一次情報・公的資料にもとづき、専門用語をできるだけやさしく翻訳することを心がけています。内容に誤りや古い情報がある場合は、お問い合わせからご連絡ください。

執筆:ゆるふわ核融合編集部 最終更新日:2026年9月8日

Footnotes

  1. Fusion Engineering and Design誌「ITER Core Plasma Thomson Scattering diagnostic design」。ITERのコア・プラズマ・トムソン散乱診断の設計、Nd:YAGレーザー仕様、電子温度・密度の測定精度目標について。 2

  2. プラズマ物理・核融合工学分野の磁気診断に関する文献(GOLEM Tokamak Wiki、Fusion Engineering and Design誌の磁気診断論文等)。ロゴウスキーコイルの原理(アンペールの法則・ファラデーの法則)とバックワインド構造、EAST・ITERにおける磁気診断一式の構成について。 2

  3. Fusion Engineering and Design誌「Renewal of the interfero-polarimeter diagnostic for WEST」、および干渉計・ポラリメトリー設計研究(OSTI)。屈折率と位相シフトによる密度測定、ファラデー回転によるポラリメトリーの原理について。 2

  4. Review of Scientific Instruments誌「Charge exchange recombination spectroscopy on the alkali beam of Wendelstein 7-X」。CXRSの原理(電荷交換反応、ドップラー広がり・シフトからのイオン温度・回転速度・不純物密度の導出)について。

  5. LLNL公式記事「Nuclear diagnostics help pave way to ignition on NIF」。2022年12月5日のNIF点火実験における投入・生成エネルギー量、中性子診断(磁気反跳中性子分光計MRS含む)の役割について。 2 3

  6. MIT News「MIT scientists contribute to National Ignition Facility fusion milestone」(2022年12月)。磁気反跳中性子分光計(MRS)による絶対中性子収量測定と、そこから導かれる核融合出力・イオン温度・燃料圧縮度合いの推定について。

  7. ITER Organization公式サイト「Diagnostics」。ITERに設置される診断システムの種類数・測定パラメータ数、磁気診断・中性子診断・光学診断など主要カテゴリーの役割について。

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