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英国STEP計画|球状トカマクで挑む2040年代の核融合実証

2026-10-02 ・ ビジネス

#核融合#英国#STEP#UKAEA#球状トカマク

核融合というと、35カ国が協力するITER計画や、巨額の資金を集める米国の民間スタートアップに注目が集まりがちです。しかしもう一つ、着実に存在感を増しているプロジェクトがあります。英国が国家事業として進めるSTEP(Spherical Tokamak for Energy Production)計画です。2026年に入り、用地取得の大幅な前倒しや大型契約の発表が相次ぎ、「設計段階」から「建設段階」へと歯車が回り始めました。この記事では、STEP計画が何を狙っているのか、2026年10月時点の最新動向を交えてビジネス目線で整理します。

この記事で分かること

  • STEPは英国が単独で進める国家プロジェクトで、旧石炭火力発電所ウェストバートン跡地に球状トカマク方式のプロトタイプ発電プラントを建設する計画
  • 2026年3月、UKAEAはEDFからの用地取得の第一段階を当初計画より3年半前倒しで完了させた
  • 同じく2026年3月にはKier・Nuvia主導のILIOSコンソーシアムが建設パートナーとして2億ポンド規模の契約を、4月にはTokamak Energyが磁石システムパートナーとして7000万ポンド規模の契約を獲得した
  • 政府は運営母体をUK Industrial Fusion SolutionsからUK Fusion Energyに改称し、13億ポンドの投資を伴う新戦略を発表した
  • 目標は2040年代の運転開始で、発電・燃料自給・保守性という3つの商業的成立条件の実証を狙う

対象読者:英国の核融合国家プロジェクトの進捗をビジネス目線で押さえたい社会人・投資家向け

執筆:ゆるふわ核融合編集部 最終更新日:2026年10月2日

STEPとは何か — "炉を作る国家プロジェクト"

STEPは英国原子力公社(UKAEA)が主導する、球状トカマク方式によるプロトタイプ核融合発電プラントの建設計画です。建設地は、ノッティンガムシャー州の旧石炭火力発電所ウェストバートン跡地。2022年にこの土地が選ばれて以来、設計を深める段階が続いてきましたが、2026年に入り一気に実行フェーズへと移行しました。

球状トカマク(きゅうじょうトカマク)

通常のトカマクがドーナツ状の太い輪であるのに対し、球状トカマクは中心の穴を極小化し、リンゴに近い球形に近づけた形状です。アスペクト比(装置の大きさに対する穴の小ささ)を下げることで、同じ超伝導磁石の強さでもプラズマをより効率よく閉じ込められるとされ、装置全体のコンパクト化につながると期待されています。英国はこの方式を、小型球状トカマクMASTやMAST-Uでの実験、さらに民間企業Tokamak Energyの開発を通じて蓄積してきました。

STEPが目指すのは、単なる科学的な実証ではありません。正味のエネルギー産出、燃料(トリチウム)の自給、そして実際に保守・補修できる設計という、商用炉として成立するための3条件を一つのプラントでまとめて実証することを狙っています。

2026年に動いた3つの契約

🏗️

2026年3月

ウェストバートン用地取得の第一段階が完了

🤝

£200M

建設パートナーILIOSとの契約額

🧲

£70M

磁石システムパートナーTokamak Energyとの契約額

🎯

2040年代

運転開始の目標時期

2026年3月16日、Kierと核関連専門企業Nuvia(フランスVinci傘下)のジョイントベンチャーを中核とするILIOSコンソーシアム(AECOM、AL_A、Turner & Townsendも参画)が、STEP計画の建設パートナーに選定されたと発表されました。契約額は2億ポンド規模で、まずは建設計画の具体化とサイトの受け入れ準備を担います1。

続いて4月14日には、英国の球状トカマク企業Tokamak Energyが磁石システムパートナーに選定されたと発表。2029年3月までの期間で7000万ポンド(約9500万ドル)規模の契約を結び、高温超伝導(HTS)磁石技術を手がける同社の専門部門TE Magneticsが、磁石関連の8つのワークパッケージを担当します2。民間企業として独自に商用炉開発を進めてきたTokamak Energyが、国家プロジェクトの中核パートナーに名を連ねた点は象徴的です(同社の事業全体は世界の民間フュージョン企業比較でも紹介しています)。これに加えて、デジタルエンジニアリング分野ではフランスのDassault Systèmesとの協業も進められており、設計から建設までを一貫してデジタルツインで管理する体制づくりが進んでいます。

STEP計画、2026年までの歩み

📍

2022年

ウェストバートンを建設地に選定

→
🗣️

2026年1〜3月

初の公開市民協議を実施

→
🏗️

2026年3月

用地取得・建設パートナー契約

→
🧲

2026年4月

磁石パートナー契約

→
🏭

2020年代末

大規模建設の開始を予定

用地取得は"前倒し" — ウェストバートンの旧石炭火力跡地

今回の一連の動きの中でも特に注目されたのが、用地取得のスピードです。UKAEAは2026年3月23日、電力大手EDFが保有していたウェストバートンの旧石炭火力発電所跡地について、取得手続きの第一段階を完了したと発表しました。これは当初の計画よりおよそ3年半も前倒しでの達成で、政府のSTEP計画に対する本気度を示す動きとして報じられています3。なお土地の一部ではEDFが引き続き操業・管理を続ける移行期間が設けられており、一気に全面移管するのではなく段階的に運営主体を切り替えていく設計になっています。

💡

公開市民協議も実施済み

STEP計画は2026年1月14日から3月11日にかけて、地元住民などを対象とした初の公開市民協議を実施しました。巨大な国家インフラプロジェクトとして、地域社会との合意形成を早い段階から丁寧に進めている点も特徴です。

国家戦略としての位置づけ — "UK Fusion Energy"への衣替え

これらの動きと並行して、英国政府は運営母体の体制も見直しました。これまで計画を主導してきたUK Industrial Fusion Solutions(UKIFS)は、新しい国家戦略の発表に合わせてUK Fusion Energy(UKFE)へと改称。単なるプロジェクト推進組織から、産業界・研究機関・デジタル技術を束ねる「国家的フュージョン・システムズ・インテグレーター」としての役割を担うと位置づけられました。この新戦略には、STEP計画向けに総額13億ポンドの政府投資を充てる方針が盛り込まれています4。

🌍

ITER(国際協力プロジェクト)

  • 35カ国が費用・技術を分担
  • 目的は科学的なQ値の実証
  • 商用炉ではなく大型の実験炉
  • フランスに建設、運転開始は2030年代半ば以降
VS
🇬🇧

英国STEP(単独国家プロジェクト)

  • 英国政府が単独で主導・出資
  • 発電・燃料自給・保守性を一体で実証
  • 商用炉の"ひな型"となるプロトタイプ
  • ウェストバートンに建設、運転開始は2040年代目標

国際協力型のITERとは対照的に、STEPは一国で完結する分だけ意思決定が速く、政権交代などの政治リスクを除けば機動的に動ける利点があります。一方で、ITERのように複数国が知見を持ち寄る規模のメリットは得にくく、英国単独の技術力と資金力にかかっている面もあります。核融合の規制・許認可の記事で触れた通り、英国は2021年に核融合を原子炉規制の対象外とする方針をいち早く打ち出しており、STEPの計画・立地手続きを円滑にする制度整備も合わせて進められています。

課題と見通し

⚠️

目標時期は「これから」の要素が多い

STEP計画は用地取得や主要契約という節目を着実にこなしていますが、プラント本体の詳細設計や建設はこれからが本番です。核融合発電はいつ実現するのかの記事でも触れた通り、核融合の実現時期予測は過去に何度も後ろ倒しになってきた経緯があります。2040年代という目標も、今後の技術的・予算的な進捗次第で変わりうる点には注意が必要です。この記事の内容は2026年10月時点の公表情報に基づいており、最新の状況は英国政府・UKAEA・UK Fusion Energyの公式発表でご確認ください。

まとめ

  • STEPは英国が単独で進める国家プロジェクトで、旧石炭火力発電所ウェストバートン跡地に球状トカマク方式のプロトタイプ発電プラントを建設する
  • 2026年3月、UKAEAは用地取得の第一段階を当初計画より3年半前倒しで完了させた
  • 同じく2026年3月に建設パートナーILIOS(2億ポンド)、4月に磁石パートナーTokamak Energy(7000万ポンド)との契約が発表された
  • 政府は運営母体をUK Fusion Energyに改称し、13億ポンドの投資を伴う新戦略を打ち出した
  • 目標は2040年代の運転開始。発電・燃料自給・保守性の3条件をまとめて実証する計画だが、時期は今後も変動しうる

もう少し詳しく(背景)

STEPが他の核融合プロジェクトと一線を画すのは、「科学的な成立」ではなく最初から「商業的な成立」を目標に据えている点です。ITERが目指すのはあくまで大出力の核融合反応と自己加熱の実証であり、発電や燃料自給は次の原型炉(DEMO)の仕事とされてきました。これに対してSTEPは、発電・燃料自給・保守性という複数のハードルを一つのプラントで同時にクリアしようとする、いわば"原型炉の前倒し版"のような位置づけです5。英国がこれほど踏み込んだ計画を単独で進められる背景には、MASTやMAST-Uといった球状トカマクでの長年の実験データの蓄積と、Tokamak Energyのような民間企業が育ててきた高温超伝導磁石の技術基盤があります。磁石パートナーに国内の民間企業を選んだことは、官民の技術を一体で活用する英国らしい戦略とも言えるでしょう。

もう一点注目したいのが、用地取得や建設パートナー契約といった「地味だが具体的な」進捗を、政府が前倒しで次々と発表している点です。核融合プロジェクトはとかく華やかな技術的ブレークスルーの話題が先行しがちですが、実際にプラントを建てるには土地の権利関係の整理やゼネコンとの契約といった地道な積み重ねが欠かせません。STEPがこうした実務の進捗を丁寧に可視化していることは、政治的な予算確保や産業界からの信頼獲得という意味でも理にかなった戦略です。日本のJT-60SAや米国の民間企業群とあわせて、「どの国・どの企業が最初に商用炉にたどり着くか」というレースの構図の中で、英国STEP計画は確実に有力な一角を占めつつあります。

次の一歩

実験炉の国際協力はITER計画、規制の考え方は核融合の規制・許認可、実現時期の見通しは核融合発電はいつ実現するのか、各国の企業動向は世界の民間フュージョン企業比較へどうぞ。

参考資料・出典

ゆるふわポータルでは、一次情報・公的資料にもとづき、専門用語をできるだけやさしく翻訳することを心がけています。内容に誤りや古い情報がある場合は、お問い合わせからご連絡ください。

執筆:ゆるふわ核融合編集部 最終更新日:2026年10月2日

Footnotes

  1. Kier社プレスリリース(2026年3月16日)「Kier and Nuvia led joint venture appointed as construction partner for the first stage of pioneering £200m STEP fusion energy programme」。Kier・Nuvia(Vinci傘下)主導のILIOSコンソーシアム(AECOM、AL_A、Turner & Townsendも参画)が建設パートナーに選定されたことを報告。 ↩

  2. Tokamak Energyプレスリリース(2026年4月14日)「Tokamak Energy named Magnet Systems Partner for STEP Fusion programme」。2029年3月までの期間で7000万ポンド(約9500万ドル)規模の契約を締結し、TE Magneticsが磁石関連の8ワークパッケージを担当すると発表。 ↩

  3. 英国地方紙報道・UKAEA発表(2026年3月23日)。EDFが保有していたウェストバートン旧石炭火力発電所跡地について、UKAEAが用地取得手続きの第一段階を当初計画より3年半前倒しで完了させたと報告。一部区画ではEDFによる移行期間中の操業が継続される。 ↩

  4. 英国政府発表「New UK Fusion Energy strategy maps path to commercial fusion」(2026年)。UK Industrial Fusion Solutions(UKIFS)をUK Fusion Energy(UKFE)に改称し、「国家的フュージョン・システムズ・インテグレーター」と位置づけ、STEP計画に13億ポンドの政府投資を充てる新戦略を発表。 ↩

  5. STEP計画の背景情報。2022年にウェストバートンが建設地として選定され、球状トカマク方式で発電・燃料自給・保守性の実証を2040年代の運転開始を目標に進めている経緯をまとめた基礎資料。 🌸 ↩

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