
核融合発電の規制・許認可
2026-08-28 ・ ビジネス
核融合発電の実用化というと、プラズマ物理や超伝導磁石といった技術面の話題が中心になりがちですが、実は「どんな規制の枠組みで発電所を許認可するか」も、商業化のスピードを大きく左右する重要な論点です。原子力発電所と聞くと、建設・稼働までに数年〜十数年単位の許認可プロセスを思い浮かべる人も多いでしょう。核融合がもし核分裂と同じ規制の枠組みで扱われるなら、せっかく技術が実用段階に達しても、許認可だけで長い年月がかかってしまいます。この記事では、核融合が核分裂とは異なる理由でどう規制されようとしているのか、米国・英国・日本の動きを中心に見ていきます。
この記事で分かること
- 核融合は核分裂と異なり連鎖反応や炉心溶融のリスクがなく、規制当局は核分裂とは別の枠組みを模索している
- 米国NRCは2023年、核融合を原子炉ではなく『副産物規制物質』の枠組みで規制する方針を決定した
- 2026年2月には具体的な規則案『Regulatory Framework for Fusion Machines』が公表され、パブリックコメントが進行中
- 英国は2021年、世界に先駆けて核融合を原子炉規制の対象外とする方針を打ち出した
- 日本は現状ラジオアイソトープ規制法の枠組みで対応しており、国全体の規制方針は検討段階にある
対象読者:核融合の商業化スピードを左右する規制動向を把握したいビジネスパーソン・政策関係者向け
執筆:ゆるふわ核融合編集部 最終更新日:2026年8月28日
なぜ核融合は核分裂と同じルールで規制されないのか
核分裂発電所の規制が厳格なのは、ウランなどの核分裂性物質による連鎖反応を制御し続ける必要があり、万が一制御を失うと炉心溶融のような重大事故につながりうるためです。これに対して核融合は仕組みがまったく異なります。
核融合の安全上の特徴(かくゆうごうのあんぜんじょうのとくちょう)
核融合反応には核分裂のような連鎖反応がなく、プラズマの閉じ込めが失われれば反応はすぐに止まります。燃料であるトリチウム・重水素の炉内保有量もごく少量で、核分裂炉のような炉心溶融のリスクは原理的にありません。一方で、中性子によって炉の構造材が放射化する点は核分裂と共通しており、放射線防護や廃棄物管理は依然として必要です。
この物理的な違いを踏まえ、米国・英国・日本など各国の規制当局は、核融合を核分裂発電所と同列に規制するのではなく、核融合の実態に合わせた新しい枠組みを作ろうとしています。
米国:NRCが選んだ「副産物規制物質」という道
米国の原子力規制委員会(NRC)は2023年10月、核融合システムを商業炉として規制する際の基本方針を発表しました。原子炉を規制する既存の枠組み(連邦規則集10 CFR Part 50・Part 52)を核融合にそのまま適用するのではなく、放射性の**副産物規制物質(byproduct material)**を扱う既存の枠組み(10 CFR Part 30)を土台に、核融合専用の規制を組み立てるという選択です1。核融合には連鎖反応がなく、閉じ込めを失えば反応が止まるという特性が、この判断の根拠になっています。
この方向性は2024年7月成立のADVANCE Act(先進的原子力技術の推進を目的とした法律)によって法的にも後押しされ、NRCは2025年7月、量産型の核融合装置の許認可のあり方について議会に報告書を提出しました2。そして2026年2月26日、NRCはついに具体的な規則案「Regulatory Framework for Fusion Machines」を連邦官報に公表し、2026年5月27日までパブリックコメントを受け付けています3。
2023年10月
NRCが副産物規制物質の枠組みを選択
2024年7月
ADVANCE Act成立
2026年2月26日
具体的な規則案を公表
2026年5月27日
パブリックコメント締切
この規則案の特徴は、「パフォーマンスベース・技術中立・リスク情報に基づく」という表現に集約されます。特定の閉じ込め方式を前提とせず、開発企業がどんな方式を採っていても対応できる柔軟な枠組みを目指しており、環境影響評価についても、原子炉建設で必要になる大掛かりな環境影響評価書(EIS)ではなく、より簡易な環境評価(EA)で足りるケースが想定されています4。NRCはこの枠組みが、2020年代後半の実証と2030年代前半の商用展開を後押しすると見込んでいます。
核分裂発電所の規制(Part 50/52)
- 連鎖反応・炉心溶融リスクを前提にした厳格な審査
- 建設許可から運転許可まで多段階・長期間
- 大規模な環境影響評価書(EIS)が原則必要
- 原子炉の種類ごとに個別審査になりやすい
核融合の規制候補(Part 30ベース)
- 連鎖反応がないことを踏まえたリスク情報ベースの審査
- 既存の材料規制の枠組みを応用し手続きを簡素化
- 多くのケースで簡易な環境評価(EA)で対応
- 技術中立的な設計で複数方式に対応できる
英国:世界に先駆けて規制を切り離した国
英国は2021年、核融合発電施設を原子力サイト規制(原子力規制庁ONRによる原子炉としてのライセンス)の対象から外し、既存の環境規制の枠組みで対応するという方針を打ち出しました。これは世界で初めて核融合を核分裂と明確に切り離して規制した事例とされています5。2025年7月には、核融合発電所の計画・立地手続きを円滑にする国家政策声明(NPS EN-8)に関する政府の対応も公表され、「民間企業が2030年代の商用核融合プラント実現を計画している」ことを前提とした制度整備が進められています2。
日本:現状の枠組みと検討の方向性
日本には現時点で核融合に特化した法律はまだありません。現状、核融合装置は中性子を発生させる「放射線発生装置」として、放射性同位元素等規制法(RI規制法)の枠組みで扱われるのが一般的な理解です。原子力発電所を規制する原子炉等規制法は、核融合装置が法律上の「原子炉」に該当しないという見方が有力なため、基本的には適用されないとされています6。
一方で、規制のあり方そのものを見直す動きも進んでいます。日本の核融合エネルギー協議会(J-Fusion)は2025年7月、「核融合の安全プロファイルは核分裂とは根本的に異なる」との立場から、科学的根拠に基づいたリスク情報ベースの規制を求める白書を発表しました7。また政府も2025年6月、内閣府に専門チームを設置し、国の核融合エネルギー戦略の改定作業に着手すると発表しており、規制のあり方は今後数年で具体化していく見通しです8。
制度はまだ固まっていません
米国のNRC規則案は2026年5月時点でパブリックコメント段階であり、確定した最終規則ではありません。英国・日本の枠組みも今後の議論で変わりうる部分が残っています。この記事の内容は2026年8月時点の状況であり、実際に事業を計画する際は各国規制当局の最新の公式発表を確認する必要があります。
まとめ
- 核融合には核分裂のような連鎖反応・炉心溶融リスクがなく、各国規制当局は核分裂とは別の枠組みを模索している
- 米国NRCは2023年、核融合を原子炉規制ではなく副産物規制物質の枠組みで扱う方針を決定し、2026年2月に具体的な規則案を公表した
- 米国の新しい枠組みは技術中立・リスク情報ベースを掲げ、環境影響評価の簡素化などによって商業化を後押しする狙いがある
- 英国は2021年に世界初とされる核融合の規制分離を行い、計画・立地手続きの整備も進めている
- 日本は現状RI規制法で対応しており、専門チームの設置など国としての規制方針は検討段階にある
もう少し詳しく(背景)
規制の枠組みがどう設計されるかは、単なる法律論にとどまらず、核融合企業の資金調達にも直結する実務的な問題です。許認可の見通しが立たない事業には金融機関も投資家も長期の資金を出しにくく、逆に明確でリスクに見合った規制があれば、企業は建設計画やスケジュールを立てやすくなります2。米国のNRCが「パフォーマンスベース・技術中立」という設計を選んだ背景にも、特定方式を優遇せず多様な民間企業の参入を促す狙いがあると見られます。
各国が足並みをそろえて核融合専用の規制を整備しようとしている点も注目に値します。国際的に規制の考え方や安全基準がある程度そろえば、国境を越えた投資やサプライチェーンの構築もしやすくなるためです。ただし規制の緩さが安全のおろそかさを意味するわけではなく、放射線防護やトリチウムなどの燃料取り扱いに関するルールは、核融合であっても引き続き必要です。今後は、こうした規制の具体化が実際にどれだけ企業の実証・商用化スケジュールを後押しできるかが、注目のポイントになりそうです。
規制と並んで商業化を左右する要因については核融合への投資が加速する理由2026や核融合ビジネスの基礎、日本の研究開発体制については日本の核融合戦略、企業動向の全体像は核融合スタートアップの世界地図もあわせてご覧ください。
参考資料・出典
- Regulatory Framework for Fusion Systems米NRC、2023年10月の連邦官報。核融合を副産物規制物質の枠組みで扱う方針決定
- Regulatory Framework for Fusion Machines米NRC、2026年2月の規則案(連邦官報)
- NRC Proposes Regulatory Framework for FusionMorgan Lewis法律事務所による2026年規則案の解説
- Regulation Archives - Fusion Industry AssociationFIAによる米英日の規制動向まとめ
- Overview of Japanese Legal Regulation on Fusion Energy森・濱田松本法律事務所、2026年6月。日本の現行法上の核融合の位置づけを解説
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執筆:ゆるふわ核融合編集部 最終更新日:2026年8月28日
Footnotes
-
NRC, Federal Register「Regulatory Framework for Fusion Systems」(2023年10月4日公表)。副産物規制物質の枠組み(10 CFR Part 30等)を土台に核融合を規制する方針を示した。 ↩
-
Fusion Industry Association、規制関連の記事群。米国ADVANCE Actや2025年7月のNRC議会報告、英国NPS EN-8、日本J-Fusionへの対応などをまとめている。 ↩ ↩2 ↩3
-
NRC, Federal Register「Regulatory Framework for Fusion Machines」(2026年2月26日公表)。具体的な規則案とパブリックコメント期間(2026年5月27日締切)を提示。 ↩
-
Morgan Lewis「NRC Proposes Regulatory Framework for Fusion」(2026年3月)。規則案の内容(パフォーマンスベース・技術中立・環境評価の簡素化等)を解説。 ↩
-
英国政府(Environment Agency等)による2021年の発表。核融合発電施設を原子力サイト規制の対象外とし、既存の環境規制の枠組みで扱う方針を示した。 ↩
-
森・濱田松本法律事務所「Overview of Japanese Legal Regulation on Fusion Energy」(2026年6月)。日本における現状の法的位置づけ(RI規制法・原子炉等規制法の適用関係)を解説。 ↩
-
日本の核融合エネルギー協議会(J-Fusion)による2025年7月の白書。核融合の安全プロファイルが核分裂と異なるとして、リスク情報ベースの規制を提言。 ↩
-
内閣府による2025年6月の発表。国の核融合エネルギー戦略改定に向けた専門チーム設置に関する報道。 ↩