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ステラレータとは — トカマクとは違うもう一つの磁場閉じ込め方式

2026-08-13実践

#核融合#ステラレータ#トカマク#磁場閉じ込め

核融合炉というと「ドーナツ型の装置」を思い浮かべる人が多いかもしれません。実際、ITERをはじめ世界の主要な実験炉の多くは「トカマク」と呼ばれる方式を採用しています。しかし、磁場でプラズマを閉じ込める方式はトカマクだけではありません。今回紹介する「ステラレータ」は、コイル自体をぐにゃりとねじれた立体形状にすることで、トカマクが抱える構造的な弱点を回避しようとする、もう一つの有力な磁場閉じ込め方式です。見た目のインパクトも十分で、初めて写真を見ると「本当にこれが機械なのか」と驚く人も少なくありません。この記事では、ステラレータの仕組みとトカマクとの違い、そして実機であるドイツのWendelstein 7-Xや、商業化を目指す民間企業の動きまで見ていきます。

この記事で分かること

  • ステラレータはねじれたコイルでプラズマ自身に電流を流さずに閉じ込める方式
  • トカマクの弱点である『ディスラプション』のリスクを原理的に回避できる
  • その代わりコイル形状が複雑で製造難易度が非常に高い
  • ドイツのWendelstein 7-Xが世界最先端の実験機として成果を積み重ねている
  • Type One EnergyやRenaissance Fusionなど民間企業も商業化に挑戦中

対象読者:トカマク方式の基本を知っていて、他の閉じ込め方式との違いを整理したいエンジニア・学生向け

執筆:ゆるふわ核融合編集部 最終更新日:2026年8月13日

ステラレータとは何か

ステラレータstellarator

外部の磁場コイルだけでプラズマを閉じ込める、トーラス(ドーナツ)状の磁場閉じ込め方式。コイル自体を三次元的にねじれた形状にすることで、プラズマ中に電流を流さなくても安定した閉じ込め磁場を作り出せるのが最大の特徴です。名前は「星(stellar)」に由来し、太陽のような核融合反応を地上で実現したいという願いが込められています。

核融合炉の心臓部は、1億度を超える超高温のプラズマを、容器の壁に触れさせずに閉じ込め続ける仕組みです。プラズマは電気を帯びた粒子の集まりなので、磁場でその動きを縛ることができます。トカマクもステラレータも「磁場閉じ込め方式」という大枠では同じ仲間ですが、磁場の作り方が根本的に違います。

トカマクは、比較的シンプルな円形コイルを並べて基本の磁場を作り、そこにプラズマ自身に大きな電流を流すことで、閉じ込めに必要なねじれた磁力線を完成させます。一方ステラレータは、プラズマ電流に頼らず、コイルの形そのものを複雑にねじることで最初から必要な磁力線構造を作ってしまいます。つまり「プラズマに仕事をさせるか、コイルに仕事をさせるか」という設計思想の違いが、両者を分けているのです。

トカマクとの違いを比べる

🍩

トカマク

  • コイルは比較的シンプルな円形・平面形状
  • プラズマに大電流を流して磁場を補完する
  • ディスラプション(急な電流消失)のリスクがある
  • 設計・建設の実績が多く、技術的に成熟
  • ITERなど大型プロジェクトの主流方式
VS
🌀

ステラレータ

  • コイルは複雑な三次元的ねじれ形状
  • プラズマ電流にほぼ頼らず定常運転が可能
  • ディスラプションのリスクを原理的に低減できる
  • コイル製造・組立の難易度が非常に高い
  • Wendelstein 7-Xなどで実証が進行中

なぜステラレータは「壊れにくい」のか

トカマクの弱点としてよく挙げられるのが「ディスラプション」と呼ばれる現象です。プラズマに大電流を流して閉じ込めを行っている以上、その電流が何らかの理由で急激に失われると、莫大なエネルギーが一瞬で装置壁に叩きつけられ、機器を損傷させるおそれがあります。将来の商用炉でこれが頻発すると、稼働率や設備寿命に深刻な影響を与えかねません。

ステラレータはそもそもプラズマ電流に閉じ込めを依存していないため、この種のディスラプションが原理的に起こりにくいという大きな利点があります。また、プラズマ電流を流し続ける必要がないぶん、理論上は「定常運転」——プラズマを止めることなく連続して発電し続ける運転——に向いているとも言われます。

💡

ディスラプションとは

トカマク特有の現象で、プラズマ中の電流が急激に失われることで生じる、装置への強い熱的・機械的負荷を伴う不安定現象です。トカマクの設計・運用ではこのリスクをいかに抑えるかが重要な課題の一つになっています。

その代償は「途方もない製造難易度」

良いことずくめに見えるステラレータですが、大きな代償があります。それはコイルの形状そのものが複雑すぎて、作るのが極めて難しいということです。

トカマクの円形コイルは、大量生産にも近い形で比較的規則的に製造できます。しかしステラレータのコイルは、装置ごとに一つひとつ異なる、なめらかで不規則な三次元曲面を精密になぞる必要があります。しかも超伝導コイルの場合、極低温まで冷やしながら強力な磁場を発生させる必要があるため、形状の精度がわずかでもずれると期待した磁場構造が得られません。

ステラレータのコイルができるまで(概念)

🧮

磁場設計の最適化

スーパーコンピュータで、望ましい閉じ込め性能が得られる三次元磁場構造を数値的に探索する

📐

コイル形状の逆算

目的の磁場を作るために必要な、ねじれたコイルの立体形状を設計する

🏭

精密製造

超伝導線材を複雑な曲面に沿って正確に巻き上げる。ミリ単位のずれも許されない

🔩

組立・調整

数十枚のコイルを組み合わせ、位置合わせと磁場計測を繰り返しながら装置全体を完成させる

このように、設計から製造・組立まで一貫して高度な精密工学が要求されるため、ステラレータは長らく「理論的には魅力的だが、実現が難しい方式」と見なされてきました。近年のスーパーコンピュータによる磁場最適化計算と、製造技術の進歩によって、ようやく実用レベルの装置が作れるようになってきたのです。

実機の代表格:Wendelstein 7-X

ステラレータ研究の最前線に立つのが、ドイツ・マックスプランク・プラズマ物理学研究所(IPP)が運営する**Wendelstein 7-X(W7-X)**です。2015年に運転を開始した、世界最大級の超伝導ステラレータで、精密に最適化された50枚の非平面コイルによって磁場を作り出しています。

W7-Xは着実に性能記録を更新してきました。2023年2月には、プラズマの「エネルギー投入量(エネルギーターンオーバー)」が1ギガジュールを超える状態を8分間にわたって維持することに成功し、大きな話題となりました。これはステラレータとしては前例のない長時間・高エネルギーの運転で、「ステラレータでも定常運転に近い高性能プラズマを実現できる」ことを示す重要な成果でした。

さらに2025年の実験キャンペーン(OP2.3)では、プラズマの性能を測る代表的な指標である「三重積」を43秒間にわたって高い水準で維持することに成功し、エネルギーターンオーバーも1.8ギガジュールへと記録を更新しています。長時間の高性能プラズマ維持という点で、トカマクの記録に迫る、あるいは肩を並べる成果を積み重ねている段階です。

🚀

2015年

W7-X運転開始

🧲

50枚

非平面超伝導コイル数

1.3GJ / 8分

2023年2月の記録(エネルギーターンオーバー)

⏱️

43秒

2025年の三重積維持記録

🌱

三重積とは

プラズマの「密度×温度×閉じ込め時間」で表される指標で、核融合反応が正味のエネルギーを生み出せるかどうかを測る代表的なものさしです。値が大きく、かつ長時間維持できるほど、実用的な核融合炉に近づいていることを意味します。

商業化を目指す民間企業

近年は、ステラレータ方式を商業炉として実用化しようとする民間スタートアップも登場しています。

米国のType One Energyは、世界の主要なステラレータ実験に携わってきた研究者たちが設立した企業で、テネシー州にあるTVA(テネシー川流域開発公社)の敷地内で工学実証プラットフォーム「Infinity One」の建設を進めています。将来的には出力400メガワット級の商用ステラレータ発電炉「Infinity Two」の実現を目指しており、北米初の商用核融合発電所となることを掲げています。

フランスのRenaissance Fusionは、グルノーブルの半導体産業の集積地という地の利を生かし、高温超伝導(HTS)テープに薄膜を成膜する独自技術と液体金属を用いた技術によって、ステラレータのコイル製造・保守をより簡素化するアプローチに取り組んでいます。ステラレータ最大の弱点である「製造の難しさ」そのものを技術革新で克服しようとしている点が特徴的です。

このように、長らく研究段階にとどまっていたステラレータは、公的研究機関の実験機と民間企業の商業化競争が並走する、活気のある分野へと変わりつつあります。

まとめ

  • ステラレータはコイル自体をねじった三次元形状にすることで、プラズマ電流に頼らずプラズマを閉じ込める方式
  • トカマクの弱点であるディスラプションのリスクを原理的に避けやすく、定常運転にも向くとされる
  • 一方でコイルの製造・組立の難易度は非常に高く、長年実用化のハードルとなってきた
  • ドイツのWendelstein 7-Xは世界最先端の実験機で、2023年に1.3ギガジュールのエネルギーターンオーバーを8分間維持する記録を達成し、その後も性能記録を更新している
  • Type One EnergyやRenaissance Fusionなど、ステラレータの商業化を目指す民間企業も増えている

もう少し詳しく(背景)

ステラレータという方式自体は、実は核融合研究の黎明期である1950年代、米国プリンストン大学のライマン・スピッツァーによって考案されたもので、歴史的にはトカマクよりも古い発想です1。しかし1960年代にソ連のトカマクが目覚ましい成果を上げたことで、世界の研究の主流は一気にトカマクへとシフトし、ステラレータは長く「傍流」の存在として研究が細々と続けられてきました。

その状況を大きく変えたのが、スーパーコンピュータによる磁場の数値最適化です。W7-Xのコイル形状は、望ましい閉じ込め性能を実現するために、膨大な計算によって形状を逆算・最適化して設計されています2。この「準対称性」や「準等磁場」と呼ばれる最適化手法の発展により、かつては手が届かなかった高性能なステラレータの設計が現実的になりました。製造面でも、5軸加工機や高精度な溶接・計測技術の進歩により、複雑な曲面コイルを許容誤差内で作り上げることが可能になってきています。

トカマクとステラレータは対立する技術というより、互いの弱点を補い合う関係にあるとも言えます。ITERのような大型プロジェクトでトカマクの物理的知見が蓄積される一方、W7-Xや民間企業の挑戦によってステラレータの実用性が試されており、将来の商用炉がどちらの方式(あるいは両者のハイブリッド)に落ち着くのかは、今まさに研究が進んでいる最中のテーマです。

トカマク方式の基本についてはトカマクとは、磁場閉じ込め方式全般については磁場閉じ込め方式とは、超伝導コイルの技術については超伝導マグネットとは、核融合スタートアップ全体の動向については核融合スタートアップ最前線の記事もあわせてご覧ください。

参考資料・出典

ゆるふわポータルでは、一次情報・公的資料にもとづき、専門用語をできるだけやさしく翻訳することを心がけています。内容に誤りや古い情報がある場合は、お問い合わせからご連絡ください。

執筆:ゆるふわ核融合編集部 最終更新日:2026年8月13日

Footnotes

  1. ライマン・スピッツァーが1951年にステラレータの原理を考案したとされ、プリンストン大学のプラズマ物理研究所(PPPL)はこの研究から発展しました。

  2. W7-Xのコイル設計では、プラズマの閉じ込め性能や新古典輸送損失を最小化するように磁場配位を数値的に最適化し、そこから逆算してコイル形状を決定する手法が用いられています。

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