
クーロン障壁をPythonで計算する|核融合を阻む"反発の壁"
2026-10-03 ・ 実践
核融合の最大の敵は、原子核同士の 電気的な反発。正の電荷を持つ核は近づくほど強く反発し、「クーロン障壁」という高い壁を作ります。この壁をPythonで計算し、なぜ量子のトンネル効果なしには核融合が起きないのかを理解します。なぜ核融合は難しいのかの物理版です。
クーロン障壁とは
2つの原子核が距離 r まで近づくとき、反発のエネルギー(クーロンポテンシャル)は次で決まります。
E = k × (Z₁ e)(Z₂ e) / r
核同士が「核力が効く距離」まで近づくには、この反発に打ち勝つエネルギーが要ります。それがクーロン障壁の高さです。
準備
pip install numpy
① D-T反応のクーロン障壁を計算
重水素(D)と三重水素(T)が核力の届く距離(約5フェムトメートル)まで近づくのに必要なエネルギーを求めます。
import numpy as np
k = 8.988e9 # クーロン定数
e = 1.602e-19 # 電気素量
keV = 1000 * e # 1keVのジュール
Z1, Z2 = 1, 1 # DもTも陽子1個
r = 5e-15 # 核力が効き始める距離 [m](約5fm)
E_barrier = k * (Z1 * e) * (Z2 * e) / r
print(f"クーロン障壁: {E_barrier/keV:.0f} keV")
出力は約 288 keV。ところが実際の核融合炉のプラズマ温度は10〜20keV程度。桁が1つ以上足りません。古典物理では、この壁を越えられず核融合は起きないはずなのです。
② 温度と障壁のギャップ
T_plasma = 15 # 炉の温度 [keV]
print(f"プラズマ温度: {T_plasma} keV")
print(f"クーロン障壁: {E_barrier/keV:.0f} keV")
print(f"障壁は温度の {E_barrier/keV/T_plasma:.0f} 倍も高い")
障壁は温度の約19倍。平均的な粒子はまったく届きません。ではなぜ核融合が起きるのか?
トンネル効果が壁をすり抜ける
量子力学のトンネル効果により、粒子は障壁を「越えなくても」一定確率ですり抜けられます。壁の向こうへ染み出すのです。さらにマクスウェル分布の高速側にいる粒子が加わることで、10keV程度でも核融合がぽつぽつ起きる。この2つの量子・統計効果が核融合を可能にしています。
だから高温が要る
トンネル効果があっても確率は温度に強く依存します。温度が高いほど障壁に近づける粒子が増え、トンネル確率も上がる。だから1億℃級の高温が必要なのです。逆に言えば、障壁が高い反応(原子番号Zが大きい核同士)ほど、もっと高温が要ります。DとTが選ばれるのは障壁が最も低い部類だからです。
まとめ
- クーロン障壁は原子核同士の電気的反発の壁(D-Tで約288keV)
- 炉の温度10〜20keVでは古典的には全く届かない
- 量子のトンネル効果と高速粒子の裾で、核融合が可能になる
- 障壁の低いD-Tが選ばれる。高温が必要なのはトンネル確率のため
もう少し詳しく(背景と理論)
原子核はどちらも正電荷を持つため、近づけるとクーロン斥力が働き、これが核融合を妨げる「壁(クーロン障壁)」になります。古典物理では、この障壁を越えるには数百 keV(数十億℃相当)の運動エネルギーが必要です1。ところが実際の核融合はもっと低い温度(D-T で約1億℃≈10keV)で起こります。その鍵が量子トンネル効果——粒子が障壁を「通り抜ける」確率を持つ現象で、Gamow が1928年にα崩壊で理論化しました2。反応率は、この透過確率とマクスウェル分布の高速テールの積で決まり、両者が重なる最適エネルギー帯(ガモフピーク)で反応が最も進みます3。だから「全粒子が障壁を越える」必要はなく、高温プラズマの一部の高速粒子が量子効果で融合するのです。
次の一歩 🌸
熱運動は熱速度をPythonで、燃料の選択はD-T燃料、難しさの全体像はなぜ核融合は難しいのかへどうぞ。